水道民営化が現実のものとなり、2019年中に改正水道法が施行されて影響を実感する日も近づいてきました。
今回は水道民営化のデマや嘘は無視しても大丈夫なのか、民営化で料金は値上げされるのか?
また、海外の民営化の失敗例や水道民営化に反対する理由や意見を紹介していきます。
水道民営化のデマや嘘・料金や海外の失敗例は?
水道民営化のデマは本当なのでしょうか?
民営化後の料金や、海外の失敗例についてみていきましょう。
水道民営化の料金値上げはデマで嘘?
水道民営化を行いやすくするための改正水道法が成立し、2018年12月に公布されました。
施行にあたってパブリックコメントが募集される中で、水道民営化に反対する動きがネット上を中心に起こりました。
水道民営化が現実のものとなれば、水道料金は爆発的に値上げされるだけでなく海外の企業に水という貴重な資源を牛耳られてしまうと危機感を煽るものがあります。
海外の水道民営化の事例の中には水道料金の高騰によって、市民が抗議デモを行ったために政府によって武力弾圧され死傷者が出たというものもあります。
料金が値上げされること自体はデマだと切り捨てることができませんが、その原因が水道民営化によるものか?という点についてはそれぞれの事例について詳しく考えていく必要があります。
また、海外の事例の場合はどのようなレベルの生活を送り、国がどれだけ自立することができているのか?、また水道民営化にあたって契約内容が適切なものだったのかなどを踏まえたうえで比較しなければ意味がありません。
水道民営化の海外での料金は?
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水道民営化の海外での料金の値上がりは事実なのでしょうか?
フィリピン・マニラの水道料金
1997年にコンセッション方式を用いて水道民営化を行ったフィリピンの首都マニラの料金が9倍に上がったと言われています。
水道普及率自体は69%から98%に上がり、水圧が安定したという恩恵を受けました。
フィリピン・マニラの上下水道システムを運営しているマニラウォーターとメイニラッドは2018年に次のように料金の引き上げを行いました。
マニラウォーター | メイニラッド |
0.99ペソ(1m3あたり) | |
基本料金 | 基本料金 |
25.50ペソ | 35.48ペソ |
1ペソ=約2〜3円です。
徐々に値上がりしていっているように見受けられますが、メイニラッドは狭い路地にも水道管網を構築し、住民がゴムホースを使って排球できるようにしました。
各世帯が5,000ペソの接続量を分割払いで支払っており、1世帯当たり月額約200ペソの追加料金が発生しています。
この金額はかつて水道管を利用することができなかった貧困層が水売りに支払っていた金額の25%にあたります。
イギリスの水道料金
イギリスとウェールズでは1989年に水道民営化が行われ、2014年までの間に家庭用の水道料金が40%値上げされました。
ただしこの40%の値上げをただ批判することは好ましくありません。
水道民営化が行われた初期段階で水道料金が大幅な値上がりをしました。
しかし最近では徐々に料金が値下げされていっています。
値下げの理由の一つには、水道料金の設定は民間企業に任されておらず、国の規制機関によって上限額を設定されています。
2014年の水道料金予想 | 実際の平均請求額 |
396ポンド | 405ポンド |
1ポンド=約133円なので、日本では大体3,000円程度の水道料金と考えると1,500円程度高いといったイメージです。
イギリスやウェールズの水道料金の値上げはほとんどが民営化の初期段科に行われました。
1995年から2014年までの間には9%の値上げが行われています。
2009年から2014年の間には実質2.4%の値下げが行われ、国の規制機関は2019年までの間に5%の上限額の値下げを決定しています。
日本でも同じことが言えますが、これらの料金は共通する金額ではなく住んでいる地域によってかなりの差があります。
水道民営化の海外の失敗例は?
水道民営化の海外での失敗例にはどのようなものがあるのでしょうか?
世界銀行によれば2007年の時点で約2億7000万人、40か国以上で水道民営化が行われ、その水を受け取っていると推定しています。
中国、アメリカ、ブラジル、フランス、スペイン、インド、ロシア、イギリスなど多くの国で民営化が行われています。
これらの国々は水道事業のうち一部が民間企業によって運営されています。
チリ、チェコ、アルメニア、コートジボアール、ガーナ、ガボン、セネガルでは民間企業が都市全体の水道事業を行っています。
アルゼンチン、ボリビア、ガイアナ、中央アフリカ共和国などの24か国では2009年の時点で再公営化が行われていますが、それでも1990年代に行われた民営化による契約のうち84%は継続されています。
海外の事例を比較材料とするにあたり、「日本と同じコンセッション方式で水道民営化を行っているのか」という点には注意を払う必要があります。
コンセッション方式であったり、リース、完全民営化、投資家所有、管理契約など多岐にわたります。
ニカラグア、オランダ、ウルグアイは水道民営化を禁止する法律を可決しています。
また、イタリアでは2011年6月に住民投票で水道民営化を指示する法律が廃止されました。
2019年にはアメリカ・メリーランド州ボルチモアで水道民営化が禁止されました。
水道民営化の失敗例としてはボリビアが挙げられます。
ボリビアは1990年代に世界銀行から融資を受けていた関係もあり、世界銀行の圧力を受けて大都市の一つコチャバンバの水道民営化を決定します。
世界銀行はコチャバンバの工業事業を資金援助してきましたが水道水の利用は40%に減少し、損失は40%で水道水は1日に4時間しか供給されませんでした。
水道を持たない家庭は水売りから10倍の金額で購入していました。
1997年にコチャバンバの市長はダムやダムから都市へのパイプラインの建設などを含めた入札を開始しました。
世界銀行はダムを入札対象にすべきでないと反対しましたが聞き入れられず、その結果世界銀行はコチャバンバ市内の水供給に関連する資金援助を終了してしまいます。
その後、ある企業の入札を受け入れることになり年間最低15%の利益が保証されました。
それとともに灌漑、共同給水システムや屋根に溜められた雨水などの全ての水資源に対してその企業の独占権が与えられる法案が可決されます。
その企業は水道料金を35%引き上げ、水資源を独占したことで2000年1月に大規模な抗議デモが行われました。
政府は首謀者を逮捕するとともに4月には非常事態宣言を発令しますが、なおも抗議デモは続き、政府は抗議デモ参加者を殺害する事件にまでなりました。
こうした混乱に乗じて企業の従業員はコチャバンバから逃亡し、政府は逮捕していた首謀者を釈放するとともに民営化を終了しました。
フランス・パリでも水道民営化をコンセッション方式によって1980年代から行っていました。
社会主義の市長であるベルトランド・デラノエは2008年に1985年から続いていた民間企業2社との契約を終了しました。
契約終了後に事業を引き継いだ公営企業は水道料金の引き下げを行い、再公営化が正解だったという印象を与えることになりました。
ただし、フランス・パリでの料金の引き下げと再公営化には設備投資との関係があり、水道管の交換工事などの費用がかかる期間は民間企業に運営を任せ、それ以降は料金が高いことを交渉材料として契約期間の短縮を受け入れさせていました。
この他にも、ドイツ・ベルリンでは設備投資を怠ったために2013年に再公営化に至っています。
アメリカ・ジョージア州のアトランタでは水質が悪化し他にもかかわらず値上げが続いたため、2003年に再公営化されています。
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水道民営化に反対する理由や意見・政党は?
水道民営化に反対する理由や意見にはどのようなものがあるのでしょうか?
またどのような政党が反対しているのでしょうか?
水道民営化に反対する理由や意見は?
水道民営化に反対している理由は海外の再公営化にあたって起きたトラブルが日本でも繰り返されることを懸念したものです。
水道民営化は民間企業が入札を行い、国や市町村の審査を通過した企業がその地域を独占する形です。
民間企業はあくまで営利団体であるため、すべての地域に参入したがるかと言えば利益が見込めない地域には入札したがらない可能性が高いです。
そのため、利益の見込めない地域は水道管の老朽化の対策をすることができなくなるのではないか、見放されるのではないか?といった考えをしている意見。
それでも生活には不可欠であるため料金の値上がりを受け入れるしかない苦しい状況に陥るのではないか?といったものがあります。
そこで今回の改正水道法で話されているものが広域化です。
海外の国には再公営化を行っている国や地域があり、日本の現状やどのような施策がとられるのかを差し置いて、他の国で失敗して再公営化されているのだから、「今更日本でやること自体が時代遅れでまちがっている」というものがあります。
確かに海外の国には料金の値上げや水質の悪化、いき過ぎた権力を与えられたことで失敗した事例があります。
そうした失敗例を全く活かさないのであれば、同じ過ちが繰り返されると言えます。
また、日本の土地を海外の投資家などが買い漁っていることと関連させて、水道民営化も日本の水道事業が海外の企業によって牛耳られることになると主張するものもあります。
もちろん国や市町村がすべての権利を売り払ったのであれば、そうしたことも起こりえます。
十分な審議がされず、報道もあまり行われないまま改正水道法が可決されたことが自民党による陰謀だと主張するものがあります。
水道民営化に反対する政党は?
水道民営化は連立与党、自民党と公明党が指示しており、立憲民主党やれいわ新選組などの野党が水道民営化に反対しています。
その主張は海外の失敗例を受けたもので、インフラを民営化することが危険だというものです。
ただし立憲民主党はかつての民主党の議員もおり、水道民営化の実現には一枚噛んでいました。
また、自民党や公明党も地方議会の自民党や公明党は水道民営化に反対しているという状態にあります。
水道民営化は危険なのか?
水道民営化は危険だと言われています。
公営ではなく民営になることで責任を取る存在がなくなり、大問題になると言われています。
特に外国企業が参入することで、企業は株主の利益のためにのみ行動することになり私たち市民の安全や経済力などは考慮されないと言われています。
また、公営ではなくなるために情報が公開されにくくなり、水質を含めてさまざまな不正行為が行われることになるだろうと言われています。
アメリカのウェストバージニア州では下水道料金が7%、テキサス州では154%増加しており、水道民営化後には水道料金のインフレ率が約3倍に増加し、その後も1年おきに約18%増加しています。
一般的な世帯の年間請求額は約3万円増額しました。
また、民営化によりサービスの悪化の可能性があります。
保守業務が疎かになっていたり下水の流出などが起こっている例が報告されています。
工事の資材を安く済ませようと質の悪いものを使用したり、工期が遅れたり従業員の規模縮小を行う可能性があります。
日本もそうした海外の失敗例を繰り返すのかと問われれば、反省を生かすことが求められて当然です。
すでに十分な検証や反省が行われていることと考えられますが、幸いにも反対運動や海外の事例などについて言及する声が多くなることでより厳しく、同じ過ちを繰り返さないための方策が練られます。
また、水道民営化は電気やガスの民営化とは種類が異なり、全ての権利が民間企業に引き渡されるわけではありません。
インフラとして非常に重要な要素である水資源であるため、企業の選定は非常に厳しいものとなります。
私たち市民が自ら好きな企業を選ぶのではなく、地域ごとに独占される形になります。
イギリスでも規制機関が消費者の利益を保護するために監視をし、民間企業が十分に事業を運営することができるだけの資金を確保できているか、また実行にあたり守らなければならない法的義務が数多く用意されています。
日本では静岡県浜松市の下水道の民営化しか今のところ実用例はありませんが、こうした海外の事例をもとに安全が保障されています。
また、浜松市の民営化によって値上げされたといったデマが流されていることがありますが、これは順番が正しくありません。
浜松市の下水道料金は民営化が行われる2018年4月よりも前、2017年10月に12.9%の値上げが行われています。
豊橋市など周辺では以降も下水道料金の値上げが続いています。
人口が減少しており財源が乏しく水道管の老朽化を止めることができない以上、放っておけば問題が起きるか水道料金が跳ね上がることになります。
浜松市が下水道の民営化を行ってもなお料金が値上げした理由は、下水道の民営化の成功を受けてコンセッション方式を拡大しようとしていたものの、議会での反発を受けて水道事業の民営化見送りをせざるを得なくなりました。
そのため、水道料金の値上げにつながっています。
まとめ
・水道民営化の料金値上げはデマで嘘?
料金が値上げされること自体はデマだと切り捨てることができませんが、その原因が水道民営化によるものか?という点についてはそれぞれの事例について詳しく考えていく必要があります。
・水道民営化の海外での料金は?
- フィリピン・マニラの水道料金
- イギリスの水道料金
・水道民営化の海外の失敗例は?
ボリビアの大都市の一つコチャバンバでは、水道民営化によって抗議デモが起こり、政府は抗議デモ参加者を殺害する事件にまでなりました。
・水道民営化に反対する理由や意見は?
水道民営化に反対している理由は海外の再公営化にあたって起きたトラブルが日本でも繰り返されることを懸念したものです。
・水道民営化に反対する政党は?
水道民営化は連立与党、自民党と公明党が指示しており、立憲民主党やれいわ新選組などの野党が水道民営化に反対しています。
・水道民営化は危険なのか?
水道民営化は電気やガスの民営化とは種類が異なり、全ての権利が民間企業に引き渡されるわけではありません。
いつもたくさんのコメントありがとうございます。他にも様々な情報がありましたら、またコメント欄に書いてくださるとうれしいです。