アメリカでオピオイド危機、オピオイド中毒をめぐる訴訟が行われてきました。
今回はオピオイドやオピオイド危機とは何かをわかりやすく解説するとともに、
アメリカで特に問題となっているオピオイド危機や日本への影響について紹介していきます。
オピオイド危機とは何かわかりやすく解説
オピオイドとは何か、またオピオイド危機についてわかりやすく解説していきましょう。
オピオイドとは何か
オピオイドは英語では「opioid」と書き、端的に言ってしまえば鎮痛剤にあたります。
オピウムがアヘンのことを指し、オピオイドとは「アヘン類縁物質」という意味になります。
オピオイドにはモルヒネやヘロインなども含まれ、依存症や離脱症状、過剰摂取が問題となっており死亡の危険があると言われています。
そのため、多くの国では規制対象とされています。
鎮痛剤にもさまざまある中で、オピオイドは強力な鎮痛作用を発揮します。
そのため、手術の際の麻酔、末期がんなどの強い痛みに対する鎮痛剤として処方されてきました。
人間の体の中枢神経や末梢神経には「オピオイド受容体」というものが存在し、オピオイドはそこに結びつくことで痛みなどの神経を通り伝達される情報を妨げることで、強力な鎮痛作用を発揮します。
しかし単なる鎮痛剤というわけではなく、オピオイドには多幸感や不安を除去する働きを持ち、これらによって依存症になりやすいと言われています。
オピオイドにはモルヒネやヘロインが含まれています。
これらはケシの実から採取されるアヘン、そのアヘンからモルヒネが作られ、さらに即効性の高いものとして開発されたものがヘロインです。
アヘンといえば、中学校などでアヘン戦争を聞いたことがあると思います。
オピオイドは効果が出てくる量と致死量が近いため、摂取量に気をつけなければ死亡してしまうリスクが高いです。
オピオイド危機とは何かわかりやすく解説!
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オピオイドは強力な鎮痛剤ですが、モルヒネやヘロインなどがオピオイドの例として挙げられることからも、ただの鎮痛剤ではなく麻薬に近い存在だといえます。
オピオイド危機、オピオイド中毒は主にアメリカで起こっているものです。
1995年ごろからアメリカでオピオイドの処方・使用が急速に増加したことを指します。
「鎮痛剤として効果的な薬が誕生・普及した」のであれば、別に問題とすべきではないのですが、オピオイドの過剰摂取による死亡者数の増加は急激なもので、2017年のアメリカにおける薬物過剰摂取による死亡者数70,200件のうち約70%にあたる47,600件がオピオイドによるものでした。
オピオイドに依存した長期使用率は世界的にも増加しています。
2016年には、オピオイド危機によってアメリカの平均余命が2年連続で短縮することになり、平均寿命は78.7歳から78.6歳へと低下しました。
特に男性ではより顕著で、男性の平均寿命は76.3歳から76.1歳へと低下しました。
女性の平均余命は81.1歳で安定していましたが、女性の中でもオピオイド危機の対象となる依存者が多い白人女性に関しては平均寿命の低下が見られました。
オピオイド危機の原因・理由や背景は?
オピオイド危機は1995年ごろからアメリカでオピオイドが過剰に処方され始めたことが原因とされています。
オピオイドは比較的低価格であることも原因の一つと言われています。
1990年代後半にアメリカ国民の1/3が慢性疼痛の影響を受けると推定されていました。
その影響を受け、製薬会社やアメリカ政府は鎮痛性オピオイドの使用を拡大し始めます。
そして「痛みは五番目のバイタルサイン」というフレーズも広まったことから、患者の痛みに対して医師が敏感になり、その結果として医師がオピオイドを処方するケースが増加していきました。
鎮痛剤の処方件数は1991年から2011年の20年間で3倍に膨れ上がりました。
1991年 | 2011年 | 2016年 |
7,600万件 | 2億1,900万件 | 2億8,900万件 |
アメリカにはさまざまな種類の保険制度が存在します。
特に貧困層の人々の保険は治療を対象としていないで処方薬に対してのみのものが多いため、オピオイドの処方率が増加して行った原因の一つと言われています。
2012年以降、オピオイドの年間処方立は徐々に低下して行っていますが、2017年にはアメリカ人のうち100人あたり58人がオピオイドの処方を受けています。
都市が小さかったり、歯科医や町医者が多い地域、無保険・失業率の高い都市ではオピオイドが処方されている数が多い傾向にあります。
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オピオイド危機のアメリカや日本への影響
オピオイド危機のアメリカでの現状について、
また日本への影響があるのかについて見ていきましょう。
アメリカのオピオイド訴訟や非常事態宣言とは?
2017年10月にアメリカのトランプ大統領がオピオイド危機について公衆衛生上の非常事態宣言を行いました。
これによって、「特に危険度の高いオピオイド」が市場から即時回収されることになり、オピオイドを製造販売する企業などに対し大規模な訴訟が行われる可能性を示唆していました。
オピオイドに関して、非常事態宣言が出されるほどの事態になった理由には、1990年代にオピオイドの一種・オキシコドンが少数の被験者による実験結果として「依存症のない画期的な薬」という触れ込みがされました。
処方された患者たちは痛みが完全に消えていない場合、多くの薬を摂取するようになり、依存度を高めていきました。
製薬会社は不十分な検証実験だったにもかかわらず、医師たちを豪華な接待に招き、積極的に販売・使用促進していきます。
これらによってアメリカは世界の81%のオキシコドン消費大国となってしまい、徐々に医師たちは問題に気づき始めましたが、時を同じくして中国からヘロインよりもさらに効果の高い「フェンタニル」というオピオイドが密輸されてしまいます。
こうしたアメリカ全土におけるオピオイド危機、オピオイド中毒をめぐり、アメリカの製薬会社を相手取った訴訟が2,000件以上起こされています。
2019年8月26日には日本でも有名な製薬会社「ジョンソン&ジョンソン」に600億円以上の制裁金の支払いが命じられています。
この他にも2社のオピオイド系鎮痛薬メーカーが訴えられていましたが、2社とも300億円以上の和解金を支払っています。
オピオイド危機のアメリカでの現状
アメリカにおけるオピオイド危機の現状は訴訟などが行われ、収束して行っているかのようにも見えますが、そうとは言い切れません。
下のグラフからもオピオイドによる薬物過剰摂取での死亡者数がむしろ増加傾向にあることがわかります。
こうした原因には、表面的には医師たちがオピオイドの処方を控えるようになったこと。
それに伴って依存症のある患者たちが医師の処方ではない形でオピオイドを摂取し、摂取量を誤っていること。
また、オピオイドの代替品としてより効果の強い薬が密輸されていることなどが挙げられます。
オピオイド危機に至った原因は医師たちが、手術後や慢性疼痛への対応を強化するとともに、製薬会社がオピオイドを依存性のない鎮痛薬として積極的に販売したこと。
そして医療保険の部類分けがいくつもあり、貧困層などの保険のカバーが十分でない人々はオピオイドでない薬や手術などが有効であったとしても医療保険の対象でないため、オピオイドの処方を望んでしまっていること。
また、適切な処置ができる医療機関が存在していたとしても、通院が遠方で困難な場合にはどうしても処方薬に頼ってしまい安い現状があります。
オピオイド危機の日本への影響
オピオイドの使用量はアメリカではなくさまざまな国で問題となっています。
同じように日本にもオピオイド危機が起こり得るのでしょうか?
現在、オピオイド・医療用麻薬としてモルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどが日本でも利用されています。
しかし、管理・処方・取り扱いに関して「麻薬及び向精神薬取締法」によって厳格に管理されています。
そのため、日本におけるオピオイドの使用量は世界的に見ても少ない状況にあります。
その背景には医師たちのオピオイドが治療薬として不可欠だと考えている割合や、がん治療におけるオピオイドに対する私たち患者の考え方が大きく影響しているといえます。
内閣府が行った「がん対策に関する世論調査」においても、医療麻薬の使用に関して「正しく使用すればがんの痛みに効果的だと思う」という意見が半数以上ありつつも、「最後の手段だと思う」「使用し始めたらやめられなくなると思う」といった意見を持つ人々が多いことがわかります。
このあたりは幼少期から学校などに貼り出されている薬物乱用に関するポスターなどの効果が上がっており、徐々に薬物そのものを遠ざけようとする意識が刷り込まれているといえます。
とはいえ、がん治療においてオピオイドを適切に処方する分には患者にとって効果があるのも事実であるため、日本の場合は正しい理解がなされていない部分が課題だとも言えそうです。
まとめ
・オピオイドとは何か
オピオイドは英語では「opioid」と書き、端的に言ってしまえば鎮痛剤にあたります。
オピオイドは効果が出てくる量と致死量が近いため、摂取量に気をつけなければ死亡してしまうリスクが高いです。
・オピオイド危機とは何かわかりやすく解説!
オピオイドの過剰摂取による死亡者数の増加は急激なもので、2017年のアメリカにおける薬物過剰摂取による死亡者数70,200件のうち約70%にあたる47,600件がオピオイドによるものでした。
・オピオイド危機の原因・理由や背景は?
オピオイド危機は1995年ごろからアメリカでオピオイドが過剰に処方され始めたことが原因とされています。
・アメリカのオピオイド訴訟や非常事態宣言とは?
2017年10月にアメリカのトランプ大統領がオピオイド危機について公衆衛生上の非常事態宣言を行いました。
・オピオイド危機のアメリカでの現状
表面的には医師たちがオピオイドの処方を控えるようになったり、依存症のある患者たちが医師の処方ではない形でオピオイドを摂取し、摂取量を誤っていること。
また、オピオイドの代替品としてより効果の強い薬が密輸されていることなどが挙げられます。
・オピオイド危機の日本への影響
日本におけるオピオイドの使用量は世界的に見ても少ない状況にあります。
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