2020年は三島由紀夫が亡くなってから、ちょうど50年です。
今回は、三島由紀夫の初心者におすすめの小説本、短編を紹介します。
また、最高傑作など作品のポイントやあらすじ・特徴についても解説します。
三島由紀夫の初心者おすすめ小説本・短編
2020年は三島由紀夫が亡くなってから、ちょうど50年です。
この機会に初めて三島作品を読むという方に向けて、比較的手に取りやすい作品や、三島由紀夫とはどういう人なのかが分かりやすい作品を紹介します。
憂国:三島由紀夫のイメージそのままの短編小説
三島由紀夫といえば政治的な思想を持っていて自殺した人。
そういう印象を持っている方は多いと思います。
憂国はそんなイメージをそのまま作品にしたような短編小説です。
この作品が雑誌に掲載された1961年(昭和36年)というのは、安保闘争という政治的なデモ運動が頻繁に行われていました。
そういった政治背景を反映した作品を多く書いていた時期でもあります。
憂国のあらすじ
主人公の青年軍人、武山中尉には半年前に結婚したばかりの妻、麗子がいます。
昭和11年2月に二・二六事件が発生、親友たちが敵になった事を知ります。
国に忠誠を誓っている武山中尉は、親友たちと戦うのかどうか悩んだ末に切腹を決意します。
そして彼の死を見届けた麗子も、自殺して跡を追います。
憂国の解説
三島由紀夫の作品には死を扱ったものが多いのですが、憂国はまさに死そのものがテーマです。
しかも、夫婦の愛と死を、美しく素晴らしいものとして書いています
。
武山中尉と麗子が死を決意し、そして実際に自殺に至るまでがエロティックに美しく書かれています。
また切腹するシーンは非常に生々しく、鬼気迫るものがあります。
三島由紀夫自身が、自分の良い所も悪い所もすべてを凝縮したような作品を読みたいなら、憂国を呼んで欲しいと薦めています。
潮騒:映画・ドラマ化された最高傑作の一つ
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何度も映画化、ドラマ化されている三島由紀夫の代表作の一つです。
漁師の青年と海女の少女の青春恋愛物語で、話の筋が分かりやすく手軽に読める中編小説です。
潮騒のあらすじ
伊勢湾に浮かぶ離島の青年新治は、島に呼び戻されたばかりの初江と出会い恋をします。
初めての恋に戸惑う新治と、新治に惹かれていく村の名家の娘である初江。
新治を慕う女性や、初江の婿の座を狙う有力者の息子、そして初江の父の反対など、いくつかの障害を乗り越えて結ばれるまでを描く、初々しい恋の物語です。
潮騒の解説
この作品は、三島由紀夫が初めて海外旅行に出かけ、世界中を旅した後に書かれています。
アメリカ、ヨーロッパ、南米など様々な場所を訪れましたが、特にギリシャの美しさに感動したそうです。
そしてギリシャへの憧れと情熱をぶつけるように、古代ギリシャの恋愛作品を元にして潮騒を書きました。
三島作品の主人公は心に闇を抱えた人物が多く、明るく健康的な世界を描いた潮騒は、珍しい作品と言われています。
しかし、どんなにワイルドな登場人物でもその心の動きを繊細に描く事が出来るのが、三島由紀夫の凄さです。
そして、三島由紀夫は古典を取り入れて現代的な作品を作るという方法で、いくつも名作を生み出しています。
日本の近代作家の中でも、この手法で名作を生み出せた作家というのは三島由紀夫ぐらいだと言われています。
潮騒はそういった点からも注目されている作品です。
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夏子の冒険:ポップで読みやすい作品
三島由紀夫作品の中でも、特にポップな作品です。
夏子の冒険のあらすじ
わがままで頑固なお嬢さん夏子が「修道院に入りたい」と言い出した事から始まる、恋と冒険の物語です。
とにかく痛快な物語なので、三島由紀夫作品は哲学的で難しいと思っている方は驚くと思います。
実は三島由紀夫は芸術性を重視した純文学だけでなく、こういったエンターテイメント性の高い大衆向けの作品も多く書いています。
どちらも書けるというのが凄い所で、多彩な作品が書ける作家である点も評価されています。
夏子の冒険は、主人公の夏子が北海道の修道院へ向かうところから始まります。
しかし、途中で恋人を殺した熊に復讐するために北海道へやってきた青年と出会い、恋に落ちます。
そして2人で熊を倒しにアイヌの村へ向かうという、愉快な冒険物語です。
夏子の冒険の解説
この作品が書かれた1951年(昭和26年)は、まだ女性の社会進出は珍しく、北海道という土地も未知の世界でした。
そんな中、お嬢さまが熊を倒しに北海道を冒険するという物語が発表されたのですから、当時の読者にとって刺激的な作品だったと思います。
また同時期には禁色という、人間の心と向き合いながら、芸術とは何かを考えさせる作品を書いています。
それとは対照的に、エネルギッシュで行動的な物語である夏子の冒険を書いたというのも面白く、三島由紀夫が多彩な作品を書ける作家だった事が良く分かります。
そして夏子の冒険はラストがとても素晴らしいです。
人間の複雑な感情が表れたラストは、単なる冒険物語ではない、これこそ三島作品だと思い出させてくれます。
命売ります:死をテーマにしたユーモラスな作品
大衆向け作品からもう1つおすすめの小説を紹介します。
自殺に失敗した男が、自分の命を捨てようとして起こる騒動が面白い作品です。
憂国と同じく死をテーマにしていますが、こちらはかなりユーモラスです。
命売りますのあらすじ
主人公の羽仁男は自殺に失敗したことをきっかけに、「命売ります」という広告を出します。
命を捨てるためいくつもの依頼を受けますが、羽仁男は何故か毎回生き残ってしまいます。
それを怪しんだ工作員たちに警察のスパイだという疑いを掛けられ、羽仁男は命を狙われることに。
死ぬために広告を出したはずなのに、死にたくないと必死で逃げる羽仁男がコミカルな作品です。
命売りますの解説
亡くなる2年前の1968年(昭和43年)に連載された小説で、エンターテイメント色の強い作品ですが、実は命を捨てる難しさについて、自分自身と向き合いながら書いた作品であるように思います。
というのもこの作品を書き始めた頃、三島由紀夫は自衛隊の体験入隊を行っており、彼の政治的な活動が活発になり始めた時期です。
面白いのは三島由紀夫没後45年の2015年(平成27年)に、ベストセラーになっている事です。
晩年の三島由紀夫が何を考えていたのか、どういった心境の変化があったのか。
命売りますは、それが分かる作品だからこそ多くの人に読まれたのではないでしょうか。
仮面の告白:同性愛をテーマとした最高傑作
三島由紀夫の自伝的な小説であり、彼を語る上で欠かせない作品です。
1949年(昭和24年)に同性愛をテーマにしている点でも衝撃的な作品です。
16歳でデビューした三島由紀夫は、この時24歳です。
彼は「文章の上で自殺をして、もう一度生き返る」ということを試みたのだそうです。
青年期の総決算として書かれた作品だとも言えます。
仮面の告白のあらすじ
主人公は幼い頃から男性に強く惹かれていました。
そして思春期を迎え、自分が男性に恋し性的な興奮を覚える事を自覚します。
自分は女性に恋する友人達とは違う事に気づき悩み始めます。
しかし、高校卒業が近づく頃、友人の妹である園子と親しくなり、彼女と男女間での恋愛を試みます。
自分は同性愛者ではない事を証明しようと試行錯誤して挫折する主人公の苦悩を、悲しくも美しく書いた作品です。
仮面の告白の解説
三島由紀夫は生まれつき体が弱く、それがコンプレックスだったのか、30代からボディビルで体を鍛えはじめます。
彼の生き方に影響を与えた男性的な肉体美や筋肉への憧れ、残酷なものを美しいと思う心がどのように生まれたのかを、仮面の告白では包み隠さず丁寧に書いています。
詩のような文章で書かれているため、少し難しく感じると思いますが、三島由紀夫の人となりを知る事が出来る作品ですので、是非読んで欲しいと思います。
まとめ
- 憂国:三島由紀夫のイメージそのままの短編小説
- 潮騒:映画・ドラマ化された最高傑作の一つ
- 夏子の冒険:ポップで読みやすい作品
- 命売ります:死をテーマにしたユーモラスな作品
- 仮面の告白:同性愛をテーマとした最高傑作
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