2019年7月21日の第25回参議院議員選挙を目前に、緊急事態条項の危険性についてテレビ番組で取り上げられていました。
今回は緊急事態条項とは何か、その危険性についてわかりやすく解説するとともに、
自民党が盛り込む憲法改正草案の文面や外国での緊急事態条項の事例を合わせて紹介します。
緊急事態条項は危険なのかわかりやすく解説!
緊急事態条項とは何かわかりやすく解説するとともに、本当に危険なのかについてもみていきましょう。
緊急事態条項とは何か?
「緊急事態条項」は「緊急権」に基づいて作られるルールです。
日本の法制度は「憲法>法律>政令・条例」といった優先順位になっています。
緊急事態条項とは、災害に見舞われたり外国から攻撃・侵略を受けたり、緊急を要する事態が起こったときに憲法の一部の機能を停止して、国を守るために必要なルールを政府だけで決めて対応できるようにするものです。
日本は法治国家であるため、国を動かそうと思ったときには法律で決められていないと勝手にやってはいけません。
しかしいちいち法律を制定しようと思うと、
法律案の作成・提出 |
(衆議院)委員会で話し合い |
(衆議院)公聴会を開いて有識者の意見を聞く |
(衆議院)本会議 |
(参議院)委員会で話し合い |
(参議院)公聴会を開いて有識者の意見を聞く |
(参議院)本会議 |
公布 |
施行 |
という手順を踏まないといけないため、人の命が関わるような出来事が起こったときには時間がかかり過ぎてしまいます。
そこで、緊急事態条項では政府が制定することができる「政令」を「法律と同じ効力があるもの」という扱いにすることをOKとして、政府が閣議で決めた政令で国を動かすことができるようにしよう!ということです。
多くの国で緊急事態条項と同じような緊急権を盛り込んだ制度が使われています。
パッと聞くと「災害とか起こっているときに法律作るために時間がかかってしまうぐらいならいいんじゃないの?他の国もやってるなら」という気がしますが、自然災害などに対応するための法律はすでに存在しているため、わざわざ「緊急事態条項」を作る必要はないと言われています。
緊急事態条項を憲法改正で新設する理由は?
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緊急事態条項が必要な理由として、与党・自民党は東日本大震災などで実際に法律の制定が不十分だったために救助が遅れたりトラブルが多発したことを受けて、同じ過ちを繰り返さないために緊急事態条項を憲法改正で新設する必要があると主張しています。
例えば、救助に当たった自衛隊員が法的な根拠がないために住居の敷地内に入って作業することができずに救助活動が進まなかったり、道路にある瓦礫を撤去することができずに運搬車が通れなくなったと言われています。
そうした事態を防ぐために緊急事態条項が必要だと言われているのですが、実は今の法律でも十分対応可能で憲法改正で新設する必要はないと言われています。
緊急事態条項がなくても自然災害や武力攻撃に対応できる?
地震や津波といった自然災害に対応するために、すでに「災害対策基本法」、「原子力災害対策特別措置法」、「石油コンビナート等災害防止法」が整備されています。
また、外国からの侵略などがあった際には「武力攻撃事態法」などが存在します。
万が一不足しているのであれば、補強するための法律を今の段階で制定すればいいだけのことなのです。
それでもなお、与党・自民党が緊急事態条項を憲法改正で新設しようとしている理由は何でしょうか?
自民党が緊急事態条項を憲法改正草案で新設しようとしている理由は?
緊急事態条項を自民党が憲法改正で新設しようとしている理由には、昨今の中国や韓国が尖閣諸島や竹島の侵略を行い続けていることに由来すると考えられます。
どうしても侵略の事実を受け入れたくない政党もあるため、現実的な事前の法律制定が困難になっています。
万が一の事態に対応する最終手段を確保しておきたいという意図があると推察されます。
しかし、緊急事態条項は拡大解釈がいくらでもできる上に、文言が「政府は行き過ぎたことを絶対にしない」という前提のもとに作られている点が危険視されています。
もっと限定的で拡大解釈をしても「政府が思いのままに何でもできる」ように捉えられれない文言が必要だとされています。
緊急事態条項が危険と言われる理由は?
自民党の憲法改正草案は解釈の自由度が広すぎるため、権力者の人格によっていくらでも独裁的な政令を定めて国を支配することができる点が危険だと言われています。
「法律や憲法を逆手に取った独裁」といえば、かつての第2次世界大戦のヒトラーが想起されるため、より一層不安視する声が多くあります。
また、今の法律でも対応できるにも関わらず憲法改正で文言を盛り込もうとしている「意図」を考えたときに、そうした独裁政治をしようとしているのではないか?という危惧を払拭することができないことも問題です。
緊急事態条項が新設されてしまえば、選挙がなくなる、独裁国家になる、異を唱える国民は逮捕される・・・などと不安を煽る人がいますが、拡大解釈がいくらでもできる今の緊急事態条項では、可能性がある以上そうした憶測を完全に否定することができません。
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緊急事態条項の自民党憲法改正草案や外国の事例は?
緊急事態条項の自民党憲法改正草案はどのような文言になっているのでしょうか?
また外国の事例について見ていきましょう。
緊急事態条項の自民党憲法改正草案は?
自民党の作成している憲法改正の草案の終盤に緊急事態条項に関する事項があります。
第9章
緊急事態の宣言
第98条
1 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱党による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前または事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、または事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、100日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、100日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第2項および前項後段の国会の承認については、第60条第2項の規定を準用する。この場合において、同項中、「30日以内」とあるのは「5日以内」と読み替えるものとする。
緊急事態の宣言の効果
第99条
1 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に関わる事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関に指示に従わなければならない。この場合においても、第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議員の議員の人気及びその選挙期日の特例を設けることができる。
出典:日本国憲法改正草案
「法律に定めるところにより」という文言が何度も出てきますが、現状では国会で過半数の議席を確保している政党が与党であり、政府・内閣を構成することになります。
つまり実質的には国会の入り込む余地はないため、政府が正しく機能しているときはよいでしょうが、そうでなくなればいくらでも独裁国家となり得る可能性があるということです。
緊急事態条項の外国の事例は?
緊急事態事項と同じようなものがアメリカやドイツ、フランスなどにも存在します。
アメリカの緊急事態条項
アメリカでは1980年代に導入されており、1982年にロナルド・レーガン大統領がNSDD55(国家安全保障決定令:緊急事態宣言のようなもの)を出し、核戦争時に地下政府を作る計画COGプロジェクトが始まります。
内容的には憲法を停止させて政府主導で国を動かせる計画です。
1988年には「核戦争時」の想定から「国家安全保障上の緊急事態」に切り替えられたことで、政府が緊急事態だと判断すればどんなことにも利用することができます。
実際に運用された例としては9.11の同時多発テロとその後に制定された愛国者法やイラク戦争といった一連の出来事が挙げられます。
ドイツの緊急事態条項
ドイツの緊急事態条項は、かつてのヒトラーの反省も大きいため拡大解釈をされ得るような余地が排除されており、緊急事態宣言がなされても連邦憲法裁判所は機能し続け、市民や労働組合の運動を弾圧することができないようになっています。
フランスの緊急事態条項
フランスでは第5共和国憲法第16条に文言があり、1961年に当時のド・ゴール大統領がアルジェリアにおける反乱に対して鎮圧のために緊急権を発動しました。
5か月間にわたり緊急権を適用し、強制収容の対象者の範囲を拡大し、出版の自由を制限したりしました。
2015年パリ同時多発テロでは緊急権に基づいた強制的なものは行われていませんが、緊急事態法に基づいて緊急事態宣言を発令し、容疑者と疑わしい人物を自宅軟禁し、テロを称賛する宗教施設の閉鎖などが可能とされており、権力の乱用が懸念されています。
トルコの緊急事態条項
クーデター未遂事件が起こった際に、当時のエルドアン大統領が緊急事態宣言(非常事態宣言)を発令しm 3万5000人以上を逮捕・拘束、8万人以上を免職・停職処分にするという独裁政権を確立するきっかけとなりました。
まとめ
・緊急事態条項とは何か?
緊急事態条項とは、災害に見舞われたり、外国から攻撃・侵略を受けたといった緊急を要する事態が起こったときに憲法の一部の機能を停止して、国を守るために必要なルールを政府だけで決めて対応できるようにするものです。
・緊急事態条項を憲法改正で新設する理由は?
緊急事態条項が必要な理由として、与党・自民党は東日本大震災などで実際に法律の制定が不十分だったために救助が遅れたりトラブルが多発したことを受けて、同じ過ちを繰り返さないために緊急事態条項を憲法改正で新設する必要があると主張しています。
・緊急事態条項がなくても自然災害や武力攻撃に対応できる?
地震や津波といった自然災害に対応するために、すでに「災害対策基本法」、「原子力災害対策特別措置法」、「石油コンビナート等災害防止法」が整備されています。
・自民党が緊急事態条項を憲法改正草案で新設しようとしている理由は?
緊急事態条項を自民党が憲法改正で新設しようとしている理由には、昨今の中国や韓国が尖閣諸島や竹島をめぐる侵略を行い続けていることに由来すると考えられます。
・緊急事態条項が危険と言われる理由は?
自民党の憲法改正草案は解釈の自由度が広すぎるため、権力者の人格によっていくらでも独裁的な政令を定めて国を支配することができる点が危険だと言われています。
・緊急事態条項の自民党憲法改正草案は?
自民党の作成している憲法改正の草案の終盤に緊急事態条項に関する事項があります。
・緊急事態条項の外国の事例は?
緊急事態事項と同じようなものがアメリカやドイツ、フランスなどにも存在します。
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