2016年にイギリス国民投票でEU離脱が賛成多数で可決され、その後、3年間も離脱に至らなかった中、ついにEU離脱が正式決定しました。
今回は、イギリスのEU離脱はなぜ起こったのか、わかりやすく簡単に説明します。
また、今後どうなるのか、日本へのメリット・デメリットは何かを解説します。
イギリスEU離脱はなぜかわかりやすく簡単に説明!
イギリスがEU離脱をしたのはなぜか、その理由をできる限りわかりやすく簡単に説明していきます。
EUとは?
EUは1993年に設立されたグループで、前身のECが拡大してマーストリヒト条約というものをうけて誕生しました。
前身のグループECは第2次世界大戦の反省から、「ヨーロッパ諸国内での戦争が起こらないようにしよう」という考えで生まれました。
戦争の一つの原因は貧しさ・経済的な弱さに有ります。
そこで、ヨーロッパ諸国が一つになってアメリカのような経済大国に対抗できる経済力をつけるためにできたのがECでした。
中学校の社会・公民の授業でも登場する話ですが、EUが行った政策には
- 共通通貨ユーロ
- EU加盟国同士の関税の撤廃
- EU加盟国同士はパスポート不要でOK
といったものが有名です。
共通通貨ユーロ
一つの経済的なグループになるためには、通貨が違うといちいち両替をしないといけないため大変です。
為替相場などいろいろな影響を受けてややこしくなってしまいます。
そこで、「EU加盟国で一つの通貨を作ってしまおう」と誕生したのがユーロです。
ユーロを取り入れていない国の代表例がイギリスでした。
EU加盟国同士の関税の撤廃
他の国に製品を輸出・輸入するときには、関税がかけられます。
これは、「自分の国の製品が売れやすいように外国製品は高くしよう」というものです。
しかし、EUにとってはEU加盟国同士は仲間なので関税をかける必要がありません。
これでEU加盟国同士の貿易が盛んになりました。
EU加盟国同士はパスポート不要でOK
関税の撤廃はモノの移動の自由、ユーロはカネの移動を自由にしました。
そして、ヒトの移動の自由を手に入れるために、EU加盟国ではパスポートがなくても隣の国に行くことができます。
ドイツに住みながらフランスの料理店で働くことも簡単になりました。
しかし、いいことばかりではありません。
自分の国だけで決め事を作れなくなるということは、さまざまな問題も起きてきます。
イギリスのEU離脱はなぜ起きたか簡単に説明
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2016年6月23日、イギリスの国民投票でEUを離脱すべきか残るかが問われ、
EU離脱 | EUに残る |
52% | 48% |
EU離脱が52%の得票で賛成多数で確定しました。
投票率は72%と非常に高く、約3000万人が投票し、そのうち1740万人がEU離脱を選びました。
EU離脱を促す活動がLeave.EUというサイトを立ち上げたり、SNS上などネットで繰り広げられました。
EU離脱に賛成が52%、残留(反対)が48%と僅差ですが、イギリスのEU離脱が選ばれた理由は簡単に言ってしまえば
EUに残ることはイギリスにとってデメリットが多かったから
と言えます。
もう少しだけまとめると
- EUに支払うお金が無駄
- 経済成長の邪魔
- 協定の締結スピードが遅くなる
- テロ被害の増加
- 国民保険の水準低下
このようなものが主な理由と言えます。
もともとお金をEU共通のユーロにするのを嫌がっていたり、何かとEUに否定的だったイギリス。
徐々に年月が経つにつれて問題が大きくなっていったため、EU離脱へと動いていきました。
2016年には国民投票でEU離脱が決定し、その後3年以上が経過してついに、EU離脱を公約として掲げていたジョンソン首相の保守党が2019年12月12日にイギリス下院総選挙で過半数の議席を獲得しました。
2020年1月31日をもってEU離脱が行われる予定です。
イギリスのEU離脱はなぜ起きたのかわかりやすく詳しく
先ほど挙げた5つのポイント
- EUに支払うお金が無駄
- 経済成長の邪魔
- 協定の締結スピードが遅くなる
- テロ被害の増加
- 国民保険の水準低下
を中心に、なぜイギリスはEU離脱をするのか?簡単に説明していきます。
EUに支払うお金が無駄
BBCによると、イギリスは1週間あたり3億5000万ポンド以上(約510億円)をEUに支払っているとのことです。
Vote LeaveというイギリスのEU離脱を呼びかける団体などは、NHSというイギリスの国民保険サービスに支出されるべきだと主張しています。
ただし、この解釈にはグレーゾーンが残っており、Office for National Statisticsによると、2018年にイギリス政府がEUに送金した額は155億ポンド(約2兆2600億円)ですが、このうちの一部はイギリスに返還されています。
国家統計局は2018年に45億ポンド(約6500億円)がイギリスの公共部門に返還されたと報告しています。
経済成長の邪魔
EUに加盟していると、イギリス国内の法律よりも「EUとしてアリかナシか?」が優先されます。
これがすべてのEU離脱を求める声の原因になっているとも言えます。
輸出の際の関税は撤廃されたとはいえ、EU加盟国にはさまざまな国があります。
豊かな国もあれば、貧しい国もあります。
EUの理想としているのはみんなが平等に生きられるグループなので、お金を持っている国はそれなりの負担をしなければなりません。
イギリスはまさに「お金を持っている国」の代表例なので、「単一市場規則」というものに則って企業はお金を支払わなければなりません。
これは、イギリスの大企業にとっては大したことがありませんが、中小企業にも平等に負担が強いられます。
協定の締結スピードが遅くなる
例えば、イギリスが新たにどこか新しい国と貿易協定を結びたいとします。
協定を結ぶためにはイギリス政府・議会の承認だけでなく、EUがOKしなければいけません。
Vote Leaveによれば、現状はイギリスの自由貿易が規制されていると言います。
また、EU離脱によって逆にEU加盟国から過剰な関税を課されるのではないか?と不安視する声に対しては、約890億ポンド(約13兆円)の物品を輸入しているのでイギリスよりもEUにとってデメリットが大きいと主張しています。
また、イギリスはEU加盟国・ドイツの重要な輸出相手国であるため、下手なことはしてこないだろうと考えられています。
テロ被害の増加
EU加盟国内はパスポートなしで自由に行き来できてしまいます。
犯罪者やテロ組織の人間であっても例外はありません。
保守党の議員なのでなんともいえませんが、法務大臣ドミニク・ラアブは「EUに残ることがテロ被害を増加させる」と主張しています。
EU加盟中と離脱後でどの程度テロ被害を減少させられるのかは不明です。
ただし、EU加盟国である間は「深刻で確かな脅威を証明」できない限りはEU市民の入国を禁止することができません。
イギリス国内法であれば、「公共の利益にならない」人物であれば入国を禁止することができますが、EUのルールが国内法よりも優先されているのも事実です。
dailymailによれば、過去10年間で1万1000人のEU市民を本来は入国禁止にできたと言います。
その中には例えば、「妻を殺し、イギリス国内で14歳の少女を殺したラトビア人」も含まれています。
イギリスの刑務所には、1000人のポーランド人を含む約1万人の外国人受刑者が収容されています。
国民保険の水準低下
日米FTAでも話題となっている日本の保険制度がなくなるかもしれないという話題。
形は違いますが、EU加盟国でも国民保険サービスの水準低下の問題が起こっています。
元労働外務大臣デイヴィッド・オーウェンによると、国民保険サービスは金儲けの道具となってしまっており、国民保険はイギリス政府・議会が責任をもって果たすべきと主張しています。
難民・亡命問題
dailymailによれば、2015年にEUに130万人が亡命申請し、そのうち36万3000人がシリアから来たと言います。
EUの国籍を取得した難民はイギリスにも自由に訪れることができます。
EUの国境警備局は、ジハード主義者がEUのヒトの自由な移動と難民問題を利用して潜入していると警告しています。
実際に2015年に起きたパリのテロ事件はこの一例です。
主権の回復
EUを離脱することで、イギリスは主権国家としての地位を回復することができます。
国境移動を管理できない
EU加盟国である限り、国境移動を適切に管理することができません。
300万人以上のEU加盟国の市民がイギリスに移住しており、年間18万4000人が移住しているといいます。
移住者が多いということは、それだけ問題が起きたり、イギリス国民がもらえたはずの仕事が奪われていると言えます。
キャメロン首相の時代にも、EU加盟国からの移住者を減少させると方針が打ち出されていましたが、実現はされませんでした。
適切な移住・難民の受け入れができない
EUの法律では、EU市民であれば資格などに関係なくすべて受け入れなければなりません。
逆に、EU加盟国以外の人材でどれだけ熟練した技能をもっていたとしても、企業が労働許可を取得することはほぼ不可能です。
また、EU離脱することで、難民についても同様にイギリスが責任をもって審査することができます。
外国からの過干渉
EU加盟国である限り、イギリス議会はEU司法裁判所の判決に従わなければなりません。
EU司法裁判所はビールの価格からテロ容疑者の国外追放まで、ありとあらゆる権限に干渉してきます。
今までにEU司法裁判所がイギリスにとって不利益となる判決をしていないのであれば、問題がないと言えます。
しかし1973年以来、イギリスは3/4の判決に異議申し立てをせざるを得ませんでした。
EU制度とヨーロッパ経済の腐敗
EU加盟国にはさまざまな国があります。
dailymailによれば、イギリスの経済は2008年から約10年間で6.8%の成長を遂げましたが、EU経済全体は1.9%の成長に留まりました。
失業率も
EU全体 | 10.2% |
イギリス | 5% |
ギリシャ | 24% |
スペイン | 20% |
イギリスは5%と低い失業率ですが、ギリシャやスペインは20%以上です。
また、ギリシャの若者に限定すれば失業率は51%と最低です。
付加価値税(軽減税率)
付加価値税(VAT)と呼ばれるものが製品・サービスに課されます。
いわゆる軽減税率のようなものです。
ある程度は国ごとの判断で付加価値税(VAT)のパーセントを最低5%まで引き下げるができますが、EUの承認がなければ廃止することはできません。
例えば日用品、生理用品の付加価値税(VAT)を廃止することはEUで決められていないので、イギリス政府が廃止したいと申し出て承認されなければいけません。
漁業の衰退
EUに加盟したことで、イギリスの漁師の数は1万2000人を下回りました。
本来は排他的経済水域を有していますが、EU加盟国は共通のエリアでしか漁業を行うことができません。
大西洋の広い地域でも国ごとに割当量が決まっており、スペインの船舶が1万5546トンを割り当てられた中で、イギリスの船舶は7131トンしか許可されませんでした。
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イギリスのEU離脱でどうなる・日本のメリットデメリットは?
イギリスのEU離脱で今後どうなるのでしょうか?
日本への影響やメリットデメリットは何か見ていきましょう。
イギリスのEU離脱でどうなる・メリットデメリット
2015年に保守政党がイギリスの総選挙で勝利をおさめ、EU離脱をめぐって2016年6月23日に国民投票が行われました。
国民投票でEU離脱が決定したにもかかわらず、その後3年以上もの時間を要した理由は当時のキャメロン首相をはじめ、ほとんどの政治家たちはEU離脱が実現することを望んでいなかったと言えます。
キャメロン首相が辞任し、メイ首相へと政権が移り、さらに元外務大臣ボリス・ジョンソンが後を継ぎ、ついに2020年1月31日で離脱が行われる予定となりました。
イギリスのEU離脱でどうなるのかを断言することは不可能ですが、確定している部分から見ていきましょう。
EU予算の負担
EUに加盟している限り、EUの運営予算の一部を負担し続けなければなりません。
少なくとも離脱することで負担金がなくなるため、コスト削減が図られます。
貿易
EUは加盟国同士の関税などが撤廃されています。
金融サービスでもこれは大きなメリットでした。
EUの単一市場を武器として戦っていたイギリス企業が、どれだけの打撃を受けるのかが課題とされていました。
イギリスは輸出国の50%以上がEU加盟国でした。
これは、EU加盟国は関税が撤廃されているという恩恵を受けていたためです。
しかし、EU加盟国以外では自由貿易の恩恵を得られていないため、EU離脱をすることでほぼゼロの状態に陥ります。
EU離脱を推進する人々は、イギリスがEUを離れて独自に貿易協定を確立していくことで、不利益を補えると言います。
ジョンソン首相はカナダを例に挙げて、貿易協定を締結できると主張していますが、現段階では確かなことではありません。
投資・金融
the weekによれば、EUを離脱することでロンドンが世界最大の金融センターの一つとしてみられなくなり、地位を落とすと言われています。
また、イギリスに本拠地を置く金融会社はEU加盟国への自由移動ができなくなるという大きなデメリットを負います。
BMWは、自動車がEU加盟国をはじめとしたヨーロッパ諸国に非課税で輸出できなくなれば、自動車メーカーがイギリスでの生産を縮小・終了する可能性があると主張しています。
EU離脱を支持する人たちは、楽観的に今後も継続して関税なしの取引が行われると断言します。
現状としては、イギリスのEU離脱に関する国民投票が行われた2016年以来、多くの銀行や金融会社がイギリスからEU加盟国に拠点を移しています。
一部の自動車メーカーは移転に成功していません。
主権
EU離脱のもっとも大きな理由は主権にあったといえます。
EUの条約がイギリス国内法よりも優先し、主権がないような事態を悲観する声が多くありました。
EUがイギリス政府や議会から権力を奪っていたことは残留を支持していた人たちも認めるところです。
ただし、EU離脱はヨーロッパにおける影響力を失い、ヨーロッパの統合という美しい理想の実現を遅らせるものでもあります。
労働党のヒラリー・ベンは、世界が相互依存の方向に進んでいる中で、影響力を失い弱体化するだけの失策だと批判しています。
経済学者によれば、「主権回復という分かりやすいメリットがある一方で、EUの単一市場から弾き出されて影響力を失った部外者」と形容しています。
移民・難民
EU加盟国である限り、EU市民の移住を禁止することは基本的にできません。
そのため、東ヨーロッパや南ヨーロッパのイギリス移住が増加しました。
国家統計局によると、2016年には
東ヨーロッパ (ルーマニア人、ブルガリア人など) |
94万2000人 |
西ヨーロッパ | 79万1000人 |
これだけの移住者がありました。
こうした移住者はEU加盟国でなくなるイギリスでは、許可が下りない限り定住することができなくなると考えられます。
仕事
EU離脱によって300万人の雇用が失われると言われています。
それに対し、EU離脱を指示する人たちは真っ向から「ただの妄想」だと否定しています。
これらは単純に貿易政策や移民に関する問題に置き換えて議論されており、実際の経済予測や雇用率に関しては放って置かれています。
移民に関しては入国する人が減ることで、仕事の奪い合いがなくなり市場価値が高くなるため賃金の上昇が見込めます。
しかし同時に、労働力不足と賃金上昇が起こることで、経済成長や経済競争力の低下が考えれます。
雇用市場にEU離脱がどのような影響を与えるのかは未知数です。
少なくとも2016年の国民投票以降、経済成長は鈍くなっており、雇用は高いままです。
貿易関係も未知数であり、EUや他国との関係によってすべてが変わってきます。
テロ・犯罪・治安
EU離脱によって、EUのルールではなくイギリス独自のルールで入国者をチェックすることができるようになります。
これはメリットであるかのようにも見えますが、元国防長官マイケル・ファロンによれば、EU加盟国だったことでNATOや国連の恩恵を受けていたと言います。
犯罪記録や乗客記録を得てテロ対策をすることができたのはEUに加盟していたからだと言います。
とはいえ、EUを離脱したからといって、イギリスをおとしめるような事態になるとは考えにくいです。
イギリスのEU離脱で日本のメリット・デメリットは?
イギリスのEU離脱自体のメリット・デメリットはすでに触れた通りです。
今後、日本が被るイギリスのEU離脱のメリット・デメリットについて見ていきましょう。
イギリスのEU離脱で日本にも影響する分野は貿易です。
EU加盟国意外とは貿易協定をほとんど結んでいなかったイギリスでしたが、NHKニュースによれば日本側はすぐにイギリスとの貿易協定締結に向けて動くと言われています。
投資・金融に関してはすでにイギリス国内に拠点を置く企業がEU加盟国に移転している例がありますが、日本にとってはイギリスからでなくEU加盟国とやりとりをすることになるだけであり、もともとEUとのEPA (経済連携協定)が維持されるにすぎません。
イギリス国内に工場を持ち、ヨーロッパに輸出していた日本企業は輸出減少の可能性があり、デメリットと言えます。
ただ、あくまで現地の子会社が被害を受けるだけと割り切ってみれば、日本経済への影響は限りなく少ないでしょう。
現地に住む日本人にとっては影響がないとは言えませんが、日本経済への影響はほぼなく、しばらくはEUとのEPA (経済連携協定)がそのままイギリスとの間でも適応されます。
その後、日本とイギリスとの間で締結する貿易協定の発動で混乱が起こる可能性はあります。
このあたりは日米貿易協定の内容次第なので、現段階では断言することはできません。
もしイギリスとの間で自由貿易協定が締結されれば、アメリカとの間で実現に至っていない日本車の関税撤廃が行われる可能性もあります。
まとめ
・EUとは?
EUは1993年に設立されたグループで、前身のECが拡大してマーストリヒト条約というものをうけて誕生しました。
・イギリスのEU離脱はなぜ起きたか簡単に説明
- EUに支払うお金が無駄
- 経済成長の邪魔
- 協定の締結スピードが遅くなる
- テロ被害の増加
- 国民保険の水準低下
・イギリスのEU離脱はなぜ起きたのかわかりやすく詳しく
- EUに支払うお金が無駄
- 経済成長の邪魔
- 協定の締結スピードが遅くなる
- テロ被害の増加
- 国民保険の水準低下
- 難民・亡命問題
- 主権の回復
- 国境移動を管理できない
- 適切な移住・難民の受け入れができない
- 外国からの過干渉
- EU制度とヨーロッパ経済の腐敗
- 付加価値税(軽減税率)
- 漁業の衰退
・イギリスのEU離脱でどうなる・メリットデメリット
- EU予算の負担
- 貿易
- 投資・金融
- 主権
- 移民・難民
- 仕事
- テロ・犯罪・治安
・イギリスのEU離脱で日本のメリット・デメリットは?
現地に住む日本人にとっては影響がないとは言えませんが、日本経済への影響はほぼなく、しばらくはEUとのEPA (経済連携協定)がそのままイギリスとの間でも適応されます。
その後、日本とイギリスとの間で締結する貿易協定の発動で混乱が起こる可能性はあります。
いつもたくさんのコメントありがとうございます。他にも様々な情報がありましたら、またコメント欄に書いてくださるとうれしいです。