ハンセン病患者の家族訴訟の控訴を政府が断念したことで、救済措置に向けた法改正などが行われることになりました。
今回はハンセン病とは何かをできるだけわかりやすく解説していきます。
また、ニュースでも取り上げられていたハンセン病家族訴訟とは何なのか?
控訴断念の理由についても解説していきます。
ハンセン病とは何かをわかりやすく解説!
ハンセン病とは何かをわかりやすく解説していきましょう。
ハンセン病とは何かわかりやすく解説
ハンセン病は中学校の公民などでは「らい病」という言葉で出てくることがある病気です。
「らい菌」に感染することで起きる病気で、紀元前2400年のエジプトや日本書紀にも登場するほど、人間の歴史上ずっとつきまとってきました。
ハンセン病になった人の見た目に現れる異常や感染することへの恐怖から世界各地でハンセン病患者やその家族に対してさまざまな差別が国を挙げて行われてきました。
ハンセン病はほとんどの人が免疫をすでに持っており、もともと感染力の弱い病気で特効薬も開発されている完治する病気です。
現代でも医療の発達していないアフリカなどではハンセン病に感染している人たちがおり、治療をせずに放置していると身体の変形を引き起こすことがありますが、体に白や赤などの斑点が現れ出した初期の段階で治療すれば障害も全く残りません。
宮崎駿監督作品の「もののけ姫」に登場する石火矢衆や映画「関ヶ原」にも登場する大谷刑部(吉継)など、ハンセン病に感染した人物を取り上げた作品は多く、それだけ身近で長い間、私たちを苦しめてきた病気だといえます。
ハンセン病の原因は?
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ハンセン病(らい病)の原因は「らい菌」という細菌によって引き起こされ、人間やサル、アルマジロに感染します。
ハンセン病の感染源は3つ指摘されており、
一つは「多菌型」などといわれるタイプのらい菌を大量に排出するハンセン病患者が感染源となる可能性です。
ただし、今では治療法・治療薬が存在するため、治療を受けているハンセン病患者が感染源となることはありません。
二つめは虫(ハエなど)がらい菌を保持しており、人間から吸血するときに感染させられる可能性です。
三つめはアルマジロから人間に感染する可能性や川などに存在するらい菌が鼻から入って感染する可能性があると言われています。
感染経路としては、治療をしていない多菌型のハンセン病患者の鼻水や血液などの飛沫感染や鼻やのど、皮膚からの感染などさまざまな可能性が言われています。
しかし、らい病は感染力の弱い細菌であり、3〜5年の潜伏期間が一般的でときには10年以上も発症しないことがあるため、いつ・どこで・何が原因で感染したのか?を未だに特定しきれないでいます。
らい菌は弱い細菌なのに人間を苦しめる理由
らい菌は感染力の弱い細菌で、多くの人が免疫を持っているというのに、古来から人間を苦しめ続けてきたハンセン病の原因でもあります。
「感染力の弱い細菌」と聞くと、脅威ではない気がします。
同じような例で言えばHIV、AIDSも風邪よりも弱い細菌が原因だと言われています。
らい菌が人間を苦しめ続けてきた原因はこの「感染力の弱い細菌」という特徴です。
人間には免疫反応というものがあり、怪我をしたり細胞に異常があるとすぐに痛みを感じたり腫れたりして、私たち自身が自分の体の異変に気づくことができます。
しかし、らい菌は感染力の弱い細菌であり「偏性細胞内寄生菌」といわれる種類の細菌です。
その名の通り「寄生」しないと生きていけないくらい弱く、特徴のない細菌です。
一度私たちの身体に侵入して細胞に寄生することができると、ゆっくりゆっくりと細胞の栄養を吸収して増殖を続けていくため、なかなか身体の異変に気づけません。
そしてある時、身体の細胞の多くでらい菌が増殖していることで強い免疫反応が起こることで、「おかしな細胞をなんとかしないといけない」ということで皮膚や手足などに変形が生じてきたりします。
繰り返しますが、今では治療法が確立しておりダプソン、クロファジミン、リファンピシンなどの治療薬で完治させることができます。
また、多くの人はらい菌への免疫力を持っており、身体に侵入しても排除されるようになっています。
ハンセン病の隔離政策と差別
ハンセン病に感染した人は離れ小島や隔離施設へ強制的に収容されることが日本だけでなく世界中で行われてきました。
その理由はハンセン病患者の見た目に現れる異常と感染するかもしれないという恐怖心です。
1943年にはアメリカで「プロミン」という治療薬がハンセン病に効果があることが確認され、治療薬の開発が進んでいきました。
しかし日本ではハンセン病に対する無知、誤解、無関心から理解が進むどころか1953年に「らい予防法」という国を挙げたハンセン病患者の隔離政策が行われることになります。
この「らい予防法」は1996年になるまで改正も廃止もされることなく適用され続けていました。
死ぬまで強制的に隔離され続け、もちろん教育の機会や結婚、住む場所など人権を侵害され尽くしました。
今でも全国にハンセン病療養所は残っており、強制的に収容されたために家族親類と絶縁してしまった人や生活基盤を失ってしまった人たち、介助が必要な人たちが利用しています。
この他にも、「お金を通じてハンセン病に感染する」という考えから日本でもハンセン病療養所内で使用された特殊通貨が作られていました。
また、ハンセン病は遺伝するという噂を政府が結果的に触れ回ったことも影響してハンセン病患者の家族たちにも差別が行われ続けました。
ハンセン病患者が偽名を使用することは多く、日本でも「家族への差別などの被害を防ぐため」に多くのハンセン病患者が使用していました。
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ハンセン病家族訴訟や控訴断念の理由は?
ハンセン病家族訴訟とは何か?
また2019年7月に政府がハンセン病家族訴訟の控訴を断念した理由について見ていきましょう。
ハンセン病家族訴訟とは何かわかりやすく解説
ハンセン病患者に対する国を挙げた隔離政策の根拠とされた「らい予防法」などを巡って、ハンセン病患者たちが国家賠償訴訟を起こし、もちろん全面勝訴の判決が下されました。
しかしハンセン病患者だけでなく、隔離政策を国が行ったことで国民の中でハンセン病に対する無知な嫌悪を増大させ、ハンセン病患者の家族に対してもあらぬ差別意識を助長させたり、ハンセン病患者の家族も「ハンセン病は遺伝する」という政府の流した噂によっても多くの差別を受けることになりました。
らい予防法をめぐる「らい予防法意見国家賠償訴訟」もハンセン病患者たちが声を上げなければ一切国が補償を積極的に行うことがなかったように、ハンセン病患者の家族の受けてきた被害を認めず、補償もいっこうに行われてきませんでした。
ハンセン病患者の家族の手記に次のようなものがあります。
保健所の人がドドドドッと来て、〔ハンセン病の〕父親を連れて〔行った。〕そのあとは消毒。部屋の中、真っ白になるほど消毒されました。父親の着ているものとか寝てる布団とか、みんな山のほうへ持っていって燃しちゃった。
〔保健所の人が〕来てからはもう駄目でした。近所の人も来なくなり、学校行ってもやっぱり、いじめられるほうが多かった。あの消毒だけは一生忘れないね。真っ白になりましたもん。父親が連れて行かれてからはもう、ムラにいるのが嫌、学校へ行くのも嫌、っていう日々が常に続いていました。母親が仕事がクビになる。生活が苦しくなる。そのつど母親は「死のう、死のう、死のう」って。母親も、小さいわたしを抱えてこれから先どうしたらいいかっていうことがアタマにあるからね。「死のう、死のう」ってどれだけ言われたかわからない。
黒坂愛衣『ハンセン病家族たちの物語』世織書房
2016年になり、ついにハンセン病患者の家族たちは訴訟を起こし、被害を明らかにすること、国が謝罪広告による謝罪と損害賠償の支払いを行うよう求めていました。
ハンセン病家族訴訟控訴断念の理由は?
2019年7月9日にハンセン病患者家族たちが起こしていた訴訟に対して、安倍晋三総理は国の責任を認め、約3億7千万円の賠償を命じた熊本地裁の判決を受け入れ、控訴をしないことを表明しました。
新聞などではこの控訴断念を「異例」と報じていたり、法務省内では控訴に向けた準備が行われていた中での突然の控訴断念の発表に慌てていると報じられていました。
今回の控訴断念に関して安倍総理は
「判決内容の一部に受け入れがたい点があるのは事実。しかし筆舌に尽くしがたい経験をした家族のご苦労をこれ以上長引かせてはいけない。異例のことだが控訴しない」
と述べており、控訴断念が不本意だと思われる物言いに対して納得のいかない気持ちを原告団は抱いています。
7/9国が控訴断念
ハンセン病元患者家族訴訟会見≫控訴断念の言葉に違和感がある
本当は控訴したい、とも受け取れる
書面を見ても何故、断念したか明確な言葉がない
アベ総理に直接聴きたい
私達原告の言葉を聴いた上で納得して
控訴しなかったと
そして改めて控訴断念の理由をきちんと表明して欲しい pic.twitter.com/iKaG1cTC0D— みゆき (@m1238s) 2019年7月9日
また、2019年7月9日の控訴断念の報道の際に、朝日新聞など一部の新聞社は「控訴決定」の報道をしました。
現在、第25回参議院議員選挙の期間中でもあり、政治パフォーマンスとしてもここで控訴する可能性は限りなく低いため、朝日新聞などに意図的に嘘の情報を握らせたのではないか?という憶測も飛び交っています。
朝日新聞などは比較的、自民党政権に対して批判的な論調を続けていたため槍玉にされたのではないかと言われています。
戦慄の政権だ。朝日が裏も取らずに1面トップで出すだろうか。「ハンセン病家族訴訟控訴へ」は政権から裏が取れたから出したのだ。それが誤報だったということは、関係者が嘘と知りながら記者に伝えたとしか考えられぬ。朝日、東京と安倍批判をする新聞に誤報させて新聞自体を貶める官邸の策略?卑劣!
— 澤田愛子 (@aiko33151709) 2019年7月9日
まとめ
・ハンセン病とは何かわかりやすく
ハンセン病になった人の見た目に現れる異常や感染することへの恐怖から世界各地でハンセン病患者やその家族に対してさまざまな差別が国を挙げて行われてきました。
ハンセン病はほとんどの人が免疫をすでに持っており、もともと感染力の弱い病気で特効薬も開発されている完治する病気です。
・ハンセン病の原因は?
ハンセン病(らい病)の原因は「らい菌」という細菌によって引き起こされますが、らい病は感染力の弱い細菌であり、3〜5年の潜伏期間が一般的でときには10年以上も発症しないことがあるため、いつ・どこで・何が原因で感染したのか?を未だに特定しきれないでいます。
・らい菌は弱い細菌なのに人間を苦しめる理由
らい菌が人間を苦しめ続けてきた原因はこの「感染力の弱い細菌」という特徴です。
一度私たちの身体に侵入して細胞に寄生することができると、ゆっくりゆっくりと細胞の栄養を吸収して増殖を続けていくため、なかなか身体の異変に気づけません。
・ハンセン病の隔離政策と差別
ハンセン病に感染した人は離れ小島や隔離施設へ強制的に収容されることが日本だけでなく世界中で行われてきました。
・ハンセン病家族訴訟と隔離政策の関係は?
ハンセン病患者の家族の受けてきた被害を認めず、補償もいっこうに行われてきませんでした。
・ハンセン病家族訴訟控訴断念の理由は?
安倍総理は「筆舌に尽くしがたい経験をした家族のご苦労をこれ以上長引かせてはいけない。異例のことだが控訴しない」と述べています。
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