映画「ドクター・ストレンジ」でバスに乗ったおじいさんが本を読みながら「こりゃ傑作だ」と笑うシーンがあります。
まったくストーリーと関係がなさそうでよく分からないこの場面の意味とはなんでしょうか?
おじいさんが読んでいた本とその内容についてもご紹介します。
バスの中で「こいつは傑作だ」と笑うおじいさんは誰?
映画「ドクター・ストレンジ」の後半、ニューヨークのサンクタム・サンクトラムをカエシリウスたちによって2度目の襲撃があったときに、ドクター・ストレンジとモルドが倒壊と変形を続けるニューヨークのビル街を逃げているときにバスの壁に衝突します。
そのバスの車内にいたおじいさんはそので起きている事態に気づかずに「知覚の扉、これは傑作だ」と言いながら笑います。
このおじいさんは、マーベルコミック作品のファンであれば知らない人はいない人物。
ほとんどのマーベルの人気作品の原作を務め、ドクター・ストレンジの共同制作者でもあるスタン・リーです。
そして、彼が「これは傑作だ」と言っていた本はオルダス・ハクスレーの著書「知覚の扉」というエッセイ本です。
スタン・リーの経歴
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スタン・リー
本名:スタンリー・マーティン・リーバー |
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生年月日:1922年12月28日 | |
没年月日:2018年11月12日 | |
マーベル・コミック編集委員長 マーベル・メディア名誉会長など |
スタン・リーは1939年、17歳のときに叔父が社長を務めるマーベル・コミックに入社しました。
当初は編集助手を務めていましたがコミックの原作にも携わり、当時人気作であった「キャプテン・アメリカ」の脚本も担当しています。
その後人気が低迷したマーベル・コミックを立て直すため、それまでのコミックにはなかった現実の世界に生きるリアルなヒーロー描写を仕掛け人気を博しました。
1963年にドクター・ストレンジの原作を担当しています。
ドクター・ストレンジの世界観には社会の不平等、偏見だけでなく薬物乱用に対する知見も反映されています。
ドクター・ストレンジのほかにもアイアンマン、スパイダーマンやX-MENなどの人気作の原作を担当し、近年はマーベル作品の実写映画に分かりやすい形でカメオ出演し続けてきました。
2018年11月12日にアメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスの病院にて肺炎により息を引き取りました。
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バスの中でスタン・リーが読んでいた本「知覚の扉」の内容と関係は?
バスの中でスタン・リーが読んでいた本「知覚の扉」と内容や、ドクター・ストレンジとの関係性を見ていきましょう。
オルダス・ハクスレーの「知覚の扉」の内容は?
スタン・リーがバスの中で読んでいたオルダス・ハクスレーの「知覚の扉」は1954年に発行された本で、薬物によるサイケデリック体験の手記と考察が記されています。
実際に作者のオルダス・ハクスレーが自らメスカリンという薬物を摂取して体験した心の変化などが書かれています。
サイケデリック体験とはメスカリンやLSDなどの幻想を見させる薬物を摂取した際に体験する世界が歪んで見えたり、見えなかったものが見えたり、動いてないものが動いて見えたり聞こえたりするという状態のことを指します。
サイケデリック体験はLSD,メスカリンなどの薬物によって得られる体験。そこで感じられることは通常時に生きている世界を幻想として認識し、狂った世界こそ正しいと思う。
ハクスレーは薬物・メスカリンを服用することで時間と空間の認識が消え、椅子や机が立体ではなく平面の重なりのように感じられました。
また、物体がもつ存在感が光り輝いて、自分自身が光に包まれて物体と一つになる感覚を得られました。
五感の中でも色彩感覚が特に鋭くなり、今までは感じ得なかった微妙な色の違いも感じ取れるようになったといいます。
ゴッホの「ファン・ゴッホの椅子」を見たときには、ただの絵ではなく目の前にリアルに存在する椅子の存在を体験し、ボッティチェッリの「ユディト」を見たときには、描かれている服のしわに無限と神秘を感じたといいます。
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— Art and the Bible (@artbible) 2019年3月15日
表情や動作などからではなく、服にできるしわ一つからもその着用している人物の全てが表現されているように感じられるそうです。
このように物に対しては命を感じるのと同時に、人間関係など命をもつものへの興味は薄れていったといいます。
ドクター・ストレンジとスタン・リーが読んでいた本「知覚の扉」の関係は?
映画「ドクター・ストレンジ」の原作コミックは1963年からスタートし、そのストーリーには薬物乱用に関する問題も組み込まれています。
オルダス・ハクスレーの「知覚の扉」はメスカリンという薬物を摂取した際に起こる幻覚作用についてその体験を記した書物です。
映画「ドクター・ストレンジ」の中で描かれているミラー次元でのビルが倒壊したり変形したりする様はまさに薬物乱用によって見させられる幻覚を思わせます。
そして「知覚の扉」でハクスレーがゴッホの「ファン・ゴッホの椅子」を鑑賞したときに感じた平面の重なりという考え方も、ドクター・ストレンジの世界における多次元の存在であったり、ミラー次元の天地がひっくり返ったりいろいろな平面が突然現れては崩壊していくサマと似ています。
スタン・リーがバスの中で本を読んで「これは傑作だ」と笑うシーンでも、ドクター・ストレンジとモルドはミラー次元のようにビルが倒壊したり変形したりする中を逃げ回っているので、その様子を「薬物乱用者の見る幻覚と似ているな」という原作者自身が発する自虐ネタといえます。
まとめ
今回は映画「ドクター・ストレンジ」に登場するスタン・リーのカメオ出演シーンについてご紹介しました。
また、そのセリフと読んでいたオルダス・ハクスレーの「知覚の扉」の内容には映画本編とどのような関係があるのか?ということについても考察を踏まえてご紹介してきました。
残念ながらスタン・リーのカメオ出演は2019年のアベンジャーズ:エンドゲームが最後になってしまいましたが、最後まで作品の世界で生きられたという意味では幸せだったのかな・・・などと思いつつ。
ご拝読いただきありがとうございました。